「羽生さんだけじゃない」

コラム
 先日、『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?』を読みました。半年
前に出た本ですが、タイトルに少し(かなり?)抵抗があり、買うのを躊躇っていた
のです。
 それでも読んでみると、厳しい競争の中で語られる棋士の言葉は興味深いものがあ
りました。
 中でも印象に残ったのは、深浦九段の「優れた調理人は一人厨房でこつこつ研究す
る」という言葉。現代将棋の研究競争について述べたもので、著者によると、この状
況は、「知のオープン化」と「価値の創出」の両方を同時に模索するインターネット
の世界の今と酷似しているそうです。
 この手の言葉としては羽生名人の「高速道路論」がよく知られていますが、深浦九
段の言葉もそれに劣らず重要なものだと思います。
 自分が将棋を覚えた30年前には想像も出来ませんでしたが、指す以外にも、将棋に
ついて考えるべきテーマが多くあることを示しています。その際、様々な媒体を通じ
て触れることが出来るようになった棋士の言葉が助けになるのは、うれしい状況です。
 この先、どんな言葉が生まれてくるのか? 個人的には、「鰻屋」や「銀座の屋台」
など、数々の実績(!?)を持つ、藤井九段に期待しています。
   (二〇一一年七月号 T.T)