私の駒作りの出会いは、ある日突然起きたのです。額縁専門店に長年勤めていたの
ですが、60歳定年となり会社を退職する事になりました。会社のお客様で絵の先生を
している肩が、将棋が大好きで、私の退職祝いに駒木地をプレゼントしてくれたので
す。ただの駒木地なので、そのまましまい忘れていました。何年か後急遽引越しする
事になり、自分の荷物を整理していたら、その駒木地が出て来たのです。完成してい
ない駒木地をみて、私も将棋が大好きなので、自分の駒として指してみたいと思った
のです。
どこかで駒を彫ってくれる所がないかと調べたら、東京に将棋駒研究会がある事が
わかりました。その会の一人に早速電話して、完成するとどの位の費用で制作してく
れるか、たずねたところ、その方が駒木地は沢山持っているので、購入しませんと言
ったのです。駒木地を売りたいのだと勘違いしたらしいのです。
私は、駒木地を持っているので、完成して使える様にして欲しいと伝えたところ、
わかってもらい、会員の中で作ってくれる人がいるかもしれないとの事、価格は十万
位になるかもしれませんとの返事でした。随分高いなと思いながら、しばらく沈黙し
ていると、高いと思うなら作りませんとの一言でした。その時なんとも言えない嫌な
気持ちになりました。それなら自分で作るしかないと思う気になり、すぐ彫刻刀を購
入し、早速歩の駒を彫る事にしました。
作り方は、図書館で借りた「駒のささやき」という本の中に制作過程があったので
す。最初に駒字を薄い和紙にコピーして、字母子というのを作り、それを駒木地の上
に貼って、それを彫刻刀で字の通り彫っていくのです。あっという間に一枚出来上が
りました。その文字の中にうるしを刷り込み同じ様に二回くり返します。うるしが乾
燥したら、紙ヤスリで研磨し、すると彫った文字が浮かんできます。それを仕上げ磨
きを施して完成です。
その作った歩の駒を持って「誰でもすぐ入会出来る会です」と言われ、将棋駒研究
会に初めて参加したのです。会長に私の作った駒を見せたら、「初めて制作したのか」
と聞かれました。この材料は、島黄楊の根杢という大変高い材料で、初めて彫るには
もったいないとの一言でした。もっと練習してから彫るようにと言われたのです。私
は、木地がどんな種類の材料かも知りませんでした。会の終了間際、会長が彫り方は
とても良かったですよと、ほめてくれたのです。会の方が販売している安い駒木地を
購入して帰宅しました。次回の研究会に参加するのが、とても楽しみになりました。
それから十年位月日がたち、今も駒作りに切磋琢磨しています。年令が幾つになっ
ても、特技があればそれを生かした人生が送れるのです。将棋を通して太陽研の皆様
と楽しい時を過ごしたいと思っております。
(二〇一五年十・十一月号 I)