「牛丼定跡」

コラム
ある将棋ファンの友人と牛丼屋に行った。ところが、なぜか彼はオーダーの際、躊
躇していて、私は、「そんなん、ノータイムやろ」と内心ボヤキつつ横目にしていた
のだが、数分の考慮の末、彼の選択は、単に"並"。
 しかし、その先にドラマがあって、なんと、彼はもう一杯"並"を注文したのだ。謎
の考慮時間の理由はこれだった。
 とはいえ、それなら"特盛"にすればいいのでは?との疑問が残る。その旨を彼に伝
えると、「"特盛"の肉は"並"の2倍だが、ご飯は、"大盛"(1.5倍)と同じ。俺はご飯
も2倍じゃないと物足りないから、あえて"並"を2回にわけた」。さらに、「仮に"並"
で満足したなら、そこで止めればいいわけで、ロスを未然に防ぐ意味もある」そうだ。
 たしかに、私も結構大食いだが、"大盛"ではやや物足りない。それでも、"並"を2
杯は結構キツイかもしれない。
 早めに意思を明確にするより、後々の展開を睨み含みを持たせる…後回しできるも
のは、極力そうする…これらの考え方は、まさに現代将棋の思想に相通ずるもので、
彼はそれを身をもって体現していたのだ。
   (二〇一〇年十月号 M)