社団戦では毎回のように秒読みになる。中盤で相手が10分しか消費していないの
に、既に秒に追われて、のたうちまわっているという展開はザラだ。
長考癖を何とかしようと、齢47歳にして始めた「天下一将棋会」だったが、演出
と音楽の美しさに魅せられ、気づくと廃人プレイヤーの仲間入りをしていた。
ルールは、持ち時間5分、切れたら30秒の秒読みが3回、その後は一手10秒と
云う過酷さ。このルールであれば、自然に早指しになるだろう目論見だったがアテが
外れた。現在の平均思考時間は、553秒。10秒将棋になる迄390秒だからこの
数字は尋常ではない。毎回10秒将棋。地獄絵図。どMか、俺は。
当初の目的は既に崩壊しているが、見返りとして秒読みでの精度が上がった。また
自陣に手を入れながら、相手陣の詰み筋を読むという姑息な技も覚えた。
フォームは何も変わらないものの、前回の社団戦では大将で14勝1敗という望外
の成績。チームの3部昇級に貢献できた。目的に対する手段は完全に間違っていたの
だろうが、費やした時間を私は後悔していない。抵抗はこれからも続く。
(二〇一二年五月号 M)