昔の自慢話シリーズその2・有段者名簿

コラム
 昔々将棋連盟から「有段者名簿」というのが発行されていたのを御存知でしょうか。
全国及び海外の免状所有者の住所氏名が載った名簿です。免状には権威があると信じ、
段位に憧れていた私は生来の自己顕示欲も手伝って将来自分も有段者になってこの名
簿に登載されたいと願っていました。個人情報保護という発想が浸透してなかった時
代です。
 免状の文言は段位によって異なりますが「研鑽ヲ積ミ練達ニ長ケタルヲ認メ茲ニ四
段ヲ允許」これが一番気に入っていました。初段から三段までが「研鑽怠ラス」なの
に対し四段の「研鑽ヲ積ミ」にはなんだか達成感があり、「練達ニ長ケ」は如何にも
強そうな感じがしたからです。
 そこで、名簿に載せるならぜひ四段をと考え、まだ級位者だった私は休日や仕事の
帰りに町道場に通って只管昇級昇段を目指したのでした。艱難辛苦の末、町道場でや
っと四段にしてもらったのを機会に将棋会館に行き「免状が欲しいのですが」と申し
出ました。この時受付で応対してくれたのはプロ棋士の津村常吉先生であり、親切に
申請手続きを教えてくれました。太陽研の人たちは県代表になったときなどに無料で
免状をもらった人が多いので、規定の料金を支払って免状取得したのは私だけかもし
れません。
 かくして私は念願の名簿に登載されたのですが、1980年度版のこの名簿を最後
に「有段者名簿」はその後発行されていません。間に合ってよかった。折角の努力が
水泡に帰すところでした。
   (二〇一五年四月号 M)